訪問看護ステーションの経理の基本 — お金の流れと「月3回」の作業
訪問看護ステーションの経理の基本 — お金の流れと「月3回」の作業
想定読者: 訪問看護ステーションを運営している経営者・事務担当の方、これから訪問看護の経理を引き継ぐ方 最終更新: 2026年10月7日 読了時間: 約10分
はじめに
訪問看護の経理でまず戸惑うのは、「売上がいつ、いくらで、どこから入ってくるのか」が一目で分からないことです。同じ月に訪問した分でも、介護保険・医療保険・利用者の自己負担で、入ってくる日も、金額が決まる日もばらばらです。
うちは訪問看護ステーションを運営していて、2026年10月7日の社内の検討で、このお金の流れと毎月の経理の段取りを整理し直しました。この記事はその備忘を兼ねて、同じ立場の方が「お金の流れ」と「月に何回・何をすればよいか」をつかめるように書いたものです。
お金を「出す側」と「窓口」は別
最初に押さえたいのは、保険のお金には「出す側」と「窓口」が別にあることです。お金を出すのは保険者(保険を運営している団体)で、請求書を受け取って中身を確かめ、支払いを取り次ぐのは審査支払機関(請求の審査と支払いを代行する機関)です。事業者が請求書を出す相手は、保険者ではなく審査支払機関になります。
| 保険 | 出す側(保険者) | 窓口(審査支払機関) |
|---|---|---|
| 医療保険(会社員の保険) | 協会けんぽ・健保組合・共済 | 機構(社会保険診療報酬支払基金。2026年10月1日に「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」へ改組) |
| 医療保険(それ以外) | 国民健康保険・後期高齢者医療。公費(生活保護・自立支援医療など) | 国民健康保険団体連合会(国保連) |
| 介護保険 | 市区町村 | 国保連(介護保険法41条・176条) |
医療保険の公費は、保険と一緒に使う場合は主の保険と同じ請求書に載り、同じ窓口へ行きます。
これとは別に、利用者の自己負担(費用の1〜3割)は、事業者が利用者から直接受け取ります。うちはカイポケの口座振替(利用者の口座から毎月自動で引き落とす仕組み)を使っています。
介護保険と医療保険、どちらで請求するか
訪問看護は、要介護認定を受けている人には介護保険が優先です。例外として医療保険になるのは、次の3つです。
- 厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第7)に当たる人
- 主治医から特別訪問看護指示書が出ている期間(月1回・最長14日)
- 精神科訪問看護(認知症が主な病名の人を除く)
75歳以上の人は、後期高齢者医療と介護保険の両方の資格を持っています。同じ人でも、時期や状態によって請求先が変わりうる、ということです。
帳簿は「請求額で立てて、ずれた分だけ直す」
入ってくる日がばらばらでも、帳簿の考え方は1本にまとめられます。
まず、請求した時点(サービスを提供した月の翌月10日まで)に、請求額のまま売上と売掛金(まだ受け取っていない代金を受け取る権利)を計上します。このとき売掛金は、補助科目(ひとつの科目の中に設ける内訳)で支払元ごとに分けます。
- 国保連(介護)
- 国保連(医療)
- 機構
- 自己負担
支払元ごとに分ける理由は、入金の日と、金額が確定する日が支払元ごとに違うからです。分けておけば「どこから、いくら、まだ入っていないか」がすぐに見えます。
そのうえで、審査の結果と入金で、ずれた分だけを後から直します。審査の結果には2種類あります。
- 返戻(へんれい): 請求書に不備があって差し戻されること。その月は払われない
- 査定・減額: 審査で金額が減らされること。減った額で払われる
返戻になった分は、元の月の帳簿をさかのぼって直しません。返戻が分かった時点の作業日付で売上から外し、出し直した分は、出し直した請求の月末の日付で計上し直します。過去の月の数字が後から動かないので、月次の数字を比べやすくなります。
どの情報がいつ手に入るか
「ずれた分を直す」には、審査の結果と確定した金額がいつ手に入るかを知っておく必要があります。サービスを提供した月を N月 とすると、請求は N+1月10日までです。そこから先は支払元ごとに次のとおりです。
| 支払元 | 返戻・減額が分かる | 確定額が分かる | 入金 |
|---|---|---|---|
| 機構(医療) | N+2月5日ごろ(返戻内訳書・増減点連絡書) | N+2月15日(振込額明細=1件ごとの請求額・確定額の一覧) | N+2月20日過ぎ |
| 国保連(医療) | 東京都の公式の日程は未確認。他県の例では5日 | 他県の例では20日(振込通知) | N+2月20日まで(厚生労働省の通知) |
| 国保連(介護) | N+1月30日前後(返戻の一覧) | N+2月1日ごろ(支払決定額通知書・内訳書。カイポケの画面に届く) | N+2月(日は未確認) |
| 自己負担 | ― | N+1月26日に口座引落、27〜28日に結果が分かる | N+2月8日ごろ、代行会社から手数料を引いた額がまとめて入金 |
10月を例にすると、9月に訪問した分は10月10日までに請求し、介護の返戻は10月30日前後、医療の機構分の確定額は11月15日に分かり、自己負担は10月26日に引き落とされて11月8日ごろに入ってきます。
この表から分かるのは、毎月25日ごろには、2か月前の提供分について確定額の資料と入金がほぼそろうということです。逆に、それより前に1件ずつ直そうとすると、資料を待ちながら何度も帳簿を開くことになります。
なお医療保険の通知は、オンライン請求の専用の端末でしか見られず、掲載から3か月で画面から消えます。取りに行く日を決めておかないと、気づいたときには見られなくなっています。
月の作業は3回にまとめる
情報がそろう日に合わせると、経理の作業は月3回に集約できます。
(1) 中旬(10日の締めの後、資料がそろってから)
- 前月分の記帳(freee への仕訳の登録)
- 返戻・減額の取りまとめに過不足がないかの確認
- 資金繰り予測への反映
- 総合振込(複数の支払先へまとめて振り込む銀行の仕組み)の承認と、銀行への登録
(2) 25〜27日ごろ(確定額の資料と入金の履歴がそろってから)
- 保険分の照合(請求額・確定額・入金額の突き合わせ)
- 入金に合わせた売掛金の取り崩しと、返戻・減額の分の売上の修正
- 取引先への請求書の発行
- 口座の残高の確認(月末の社会保険料の引落〈納付対象月の翌月末日。末日が休日なら翌営業日〉に足りるか)
(3) 翌月1日ごろ
- 請求書がきちんと送信されたかの確認
(2) の25日が土日祝に当たる月は、翌営業日に回します。
総合振込の予約確定だけは別で、月末の前日に経営者本人が行います。お金が動く最後の操作なので、ここだけは人が画面で確かめてから押します。
役割の分け方
月3回で済ませるには、現場と経理の役割をはっきり分けておくことが前提です。
- 通知の取得と返戻の出し直しは、現場(訪問看護側の管理者)が毎月5日・20日に行う。経理はその取りまとめに過不足がないかを見る
- 取引先の請求書は「10日までに届いた分を当月末に払い、遅れたら翌月払い」という決まりにする。月末に新着の請求書を探して差分を確かめる作業はしない
後者は、締めを決めて「漏れたら翌月に拾えばよい」と割り切ることで、月末の作業を1つ減らしています。毎月の支払いが続く取引なら、1か月遅れても困ることはほとんどありません。
仕組みを学ぶなら
保険の仕組みを体系立てて学びたい方には、次のような資格の勉強が入口になります。
- 社会保険労務士: 健康保険法が試験科目にあり、「社会保険に関する一般常識」で介護保険法・高齢者医療確保法も扱う
- 介護事務管理士: 介護保険の請求事務を扱う
行政書士は、これらの法律が試験科目に入っていません。また、医療事務の資格として知られていた診療報酬請求事務能力認定試験は、2025年12月で終了しています。
まとめ
訪問看護の経理は、次の3点を押さえると見通しがよくなります。
- 保険のお金は「出す側(保険者)」と「窓口(審査支払機関)」が別で、窓口は機構と国保連の2つ。介護は国保連、自己負担は利用者から直接
- 帳簿は請求額で売上と売掛金を立て、支払元ごとに補助科目で分ける。審査の結果と入金で、ずれた分だけを後から直す
- 資料がそろう日に合わせて、作業を中旬・25〜27日ごろ・翌月1日ごろの月3回にまとめる
明日からできることを3つ挙げます。
- freee の売掛金に、支払元ごと(国保連〈介護〉・国保連〈医療〉・機構・自己負担)の補助科目があるかを確かめる
- 自社の支払元ごとに「返戻・確定額・入金がいつ分かるか」を上の表に当てはめ、分からない欄は窓口の案内で確かめる
- カレンダーに月3回の経理の日と、現場が通知を取りに行く5日・20日を入れておく